TOKYO-AIM市場に向けた監査対応

講師 : あずさ監査法人 企業公開部/産官学連携推進室
      代表社員 公認会計士 小田 哲生 様

 今日、TOKYO−AIMについてお話したいことは2つあります。1つは、TOKYO−AIM市場の活用の仕方についての見通し、もう1つはTOKYO−AIM市場上場に向け監査上どれくらいの期間をかけて準備をすればいいのか、という2点です。
 本題に入る前に99年のマザーズ市場創設時期にも今日のようなセミナーでお話したことについて触れておきます。
 新興市場は2000年のナスダック・ジャパン市場創設のような実験的な取り組みや、その後の大証ヘラクレス市場への移行など、これまで様々な話題を提供してきました。中にはマーケットの良し悪しをいう方もおられたようですが、決してマーケット自体に問題があったのではありません。むしろマーケットの運用の仕方やマーケットに参加した一部の企業の対応のあり方に問題があったというべきです。今回のTOKYO−AIMは今まさに最終的なルールを詰めている最中ですので、どのような企業が上場するかは、東証の伊藤様がお話しされたようにイマジネーションを膨らませることが必要でしょう。また、第1号となる企業は注目され、ある程度方向性を示すかもしれませんが、少なくとも1年ぐらい経って始めてTOKYO−AIM市場の活用方法が定着してくるのではないでしょうか。それだけに1銘柄だけでTOKYO−AIM市場の価値やマーケット全体を判断しないで頂きたいと願うものです 。

ロンドンAIM市場よりも優位性あるTOKYO−AIM市場

 TOKYO−AIM市場に上場するためには監査法人や証券会社などチーム編成で実現していくことは東証マザーズのような既存取引所に上場するケースとほぼ同じです。その中でも、J−Nomadといわれる指定アドバイザーの役割の比重が高まっています。
 ところで、AIM市場の本家であるロンドンAIMを概観しますと、Nomadは100社以上あります。ロンドンAIM市場に企業が上場しようとする場合、企業は上場意向を示して簡単な資料をつくり、複数のNomadを呼んでプレゼンテーションを行います。そもそもNomadが参加するかどうかが入り口基準みたいなものですが、そこで、会社の概要などを説明し、それを受けて、Nomadが上場に向けて取り組むかどうかを決めていきます。
写真_1 小田様
 日本では株式の上場に際しては証券会社が審査を務めるなど、証券会社の役割が大きいのですが、ロンドンなど海外の株式上場に際しては証券会社が審査を行わず、法律事務所がコンプライアンスやリスクのチェックを行います。法律事務所への報酬はケースバイケースですが、一般には監査法人に支払う報酬の2〜3倍という高額です。そもそも監査法人に支払う報酬自体が日本に比べ数倍は多いのでそれだけに、TOKYO−AIMに係る費用より1ケタ多いという印象を受けています。
 TOKYO−AIM市場が創設される以前、日本企業がロンドンAIMに直接上場したケースもありましたが、コスト面などを考えると、やはりTOKYO−AIM市場への上場が有利といえましょう。また、上場準備期間も短くて済むので、この面でもコスト削減ができるといえます。

TOKYO−AIMの活用方法で想定されるのは5つ

 TOKYO−AIMの活用方法を私なりにイメージしてみますと、お手元の資料に記載しましたように5つのカテゴリーに分けられます。また、その中には、例えば1の2とか、2の3と細分化できるようなケースもでてくるかもしれません。順を追って説明致します。

(1)インフラ型企業が本則市場への上場のメザニンとして利用
 民営化企業の株式上場は会社規模が大きいことや、公平性を考えると多くの投資家に株式を割り当てることが望ましいです。また、多くの投資家が参画するので、取得した株式がその後上昇し利益がでれば、NTTの例を上げるまでもなく、株式市場を活性化させる効果が期待されます。
 しかし一方で、民営化企業を適正に評価するのは難しく、特にアマチュアである一般個人投資家が入ってくることで歪な価格形成になると株式市場の相場環境を崩すことも考えられます。そこで、まずプロ市場であるTOKYO−AIM市場に上場し、適正な価格形成をした上で、東証1部などに上場するという活用の仕方が考えられます。

(2)資金需要の旺盛なベンチャー企業が活用
 これは今日セミナーに参加されている企業の方々などが該当するのではないでしょうか。
 創業した最初の段階から多額の資金調達が必要な研究開発型企業のようなケースの場合、例えば10億円とか20億円を一気に資金調達をしようとしてベンチャーキャピタルに話をしても、なかなか1社で引き受けることは難しいのが現状です。そこで、TOKYO−AIM市場ならば比較的短期間に上場できるので、ここでベンチャーキャピタルを始めプロ投資家から直接調達することが考えられます。一方、資金を出す側にとっては、J−Nomadが当該企業を指導していますし、定期的な情報開示も行いますので、モニタリングが十分できます。また、株の売買という流動性が既存取引所よりも少ないと想定されるものの、時価がつくので、従来よりも投資しやすくなると考えられます。こうしたことからアーリーステージ企業にとっては従来よりも資金調達がしやすくなるでしょう。

(3)M&AのShow case として利用
 先ほど、伊藤様が資金調達を伴わない上場だけのことを「イントロダクション」と説明されていましたが、その伏線ともいえますが、日本ではM&Aのためのマーケットがあまり確立されていません。そこで、TOKYO−AIM市場はM&Aの場として活用されていくのではないでしょうか。
 M&Aの場として定着すると思われる支援材料が会計基準にあります。今年の夏には国際会計基準と日本の会計基準の統合についての方向性が打ち出される予定です。まだ確定的なものではありませんが、2012年には併用、2013年には国際会計基準に一本化される方向に進む公算が高いとみています。ところで、日本の会計基準と国際会計基準にはあまり違いはありませんが、M&Aなどに伴って処理をしなければならない「のれん代」の償却については大きな違いがあります。この背景には日本では欧米のように企業の売買という商慣習が定着してこなかったことが考えられます。つまり、M&AのマーケットがTOKYO−AIM市場で定着すると企業評価が客観的に行えるようになるので、国際会計基準の使い勝手さが支援材料となって、M&A市場が定着していく可能性を秘めていると思います。ちなみに、ロンドAIMの上場企業の大半は資金調達を実施しないところが多く、そのようなことから推察しても、示唆に富んでいます。
 もう1つTOKYO−AIM市場がM&A市場として活用されると予想されるのは、既存市場に上場した企業の中には、リタイア指向の強い経営者が結構多いことと関係があります。例えば、経営者が代わるだけでなく、資本構成が大きく変わることで、既存事業の業態を一変させる手法をリバーサイド手法といいますが、既存の取引所での上場では再審査があります。こういったことを勘案するとTOKYO−AIM市場が活用される可能性があると考えています。

(4)他の新興市場との選択肢の1つとして活用
 これは、東証マザーズやジャスダック市場など既存市場への上場を前提に準備をしながらも、場合によっては、TOKYO−AIM市場に変更するケースもでてくるでしょう。これをハイブリッド型と称しています。

(5)外国企業の利用(オフショア)
 開示言語が日本語以外に英語も認められ、会計基準も国際会計基準などを認めていることから、海外企業の上場を想定していることが容易に想像できます。特に、アジア市場の企業がメインターゲットとなるでしょう。

TOKYO−AIM上場に向けた準備期間は最短で1年半

 株式公開を行うには、企業は監査人の監査を受けなければなりません。お手元の資料には、東証マザーズに上場する場合とTOKYO−AIM市場に上場する場合の2つのケースを時系列で表した図表を記載しました。前者は株式公開の2期間、後者は1期間、監査法人の監査を受けなければなりません。
 TOKYO−AIM市場の場合、監査期間は1期間となってはいますが、準備はそれよりも前段階から取り組む必要があります。
 例えば、公開前の業績の開示は東証マザーズに上場する場合には5期間が対象です。TOKYO−AIMはそれよりも期間が短くなるようですが、仮に3期間とすると2期間短くなります。これは単に開示期間が短くなるというものではありません。監査を行うと、「何故、この期間だけ原材料が膨らんでいるのか?」といった様々な疑問などがでてきますので、それの裏付け作業の時間は意外と長くかかりますが、2期間短縮できるとするとこれだけでも数ヶ月の短縮になるメリットがあります。ただし、内部統制などは既存の取引所への上場の場合とレベルの差こそあれ、基本的にやらなければならないことですから、これはTOKYO−AIM市場といえども同じです。
 それだけに、段取りよく進めても監査期間1年を含めて、少なくとも1年半の時間と労力がかかりますので、企業がTOKYO−AIM市場への上場を目指すことを決められたならば、できるだけ早く公開に向けた準備を始めることをお勧めします。当監査法人はこうした点でも様々な支援を行っていきますので、お気軽にお声をお掛けください。

本資料は2009年3月24日に講演された時点での内容であり、将来予告なしに内容が変更される可能性があります。 その正確性・完全性を全面的に保証するものではありません。また、情報提供を目的としたもので、投資勧誘を 目的に作成されたものではありません。これらの情報によって生じたいかなる損害についても、当社及び本情報 提供者は一切の責任を負いません。本資料の著作権はトライエフインテリジェンス株式会社にあり、本資料の 内容を無断で掲載あるいは改ざんすることを禁じます。なお、各講師の役職等は2009年3月24日時点のものです。