TOKYO-AIM市場創設について
講師 ： 株式会社東京証券取引所グループ 経営企画部
兼 株式会社東京証券取引所 上場部 企画統括役 伊藤 豊 様
東京証券取引所とロンドン証券取引所との合弁会社がAIM市場を創設
プロ向け新市場であるTOKYO-AIM市場は、昨年改正された新しい法律・制度に基づいて設立される全く新しいタイプの取引所です。運営主体は、東京証券取引所グループが51％出資し、ロンドン取引所が49％を出資して設立した合弁会社です。本日はその概要をお話いたします。
東京証券取引所には一部、二部市場と、10年前の1999年に創設した新興企業を対象としたマザーズ市場があります。東証全体で２千数百社、うちマザーズには200社弱の企業が上場しています。他の新興市場をみますと、ジャスダック証券取引所には1,000社弱、ジャスダック証券取引所と統合予定の大阪証券取引所にはヘラクレス市場などがあり、それぞれ特色のある企業が上場しています。ちなみに、ヘラクレス市場（旧ナスダック・ジャパン）は2000年に創設、最近では2007年にジャスダック証券取引所がNEO市場を開設しています。一方、海外市場に目を向けますと、シンガポール市場にはカタリスト、香港市場にはGEM、米国にはナスダック、ロンドンにはAIMなどがあります。金融という切り口からいえば、国内市場だけに眼を配るのでなく、世界にも眼を向ける必要があります。私はこのような業務に携わって様々な企業の社長や経営幹部にお会いしていますが、中には日本市場だけでなく、直接、ロンドン市場やシンガポール市場に上場したいとおっしゃる社長さんもおられます。
取引所サイドからみると各国間での競争が高まっています。私どもとしては、TOKYO-AIMや東証というマーケットを選んでいただくために、どんな特色を打ち出していったら競争に打ち勝っていけるのかを常に考えているわけです。
TOKYO-AIM創設までの経緯
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取引所の役割の１つに、投資家に資産運用の場を提供するという役割があります。投資家の中には、アマチュアもいればプロもいるわけですが、我が国の証券市場制度をめぐるこれまでの流れは、どちらかというとアマチュアの投資家を保護する観点からの規制強化の流れでした。東証1部市場など取引所に上場している企業に昨年から四半期開示や内部統制報告書の開示が義務付けられるようになったのもこうした流れと言えるかも知れません。しかし、こうした取り組みは企業にとってコストがかかり、上場のハードルは高くなります。投資家にしてみれば、開示や内部統制がしっかりしていることは、もちろん悪いことではありませんが、他方で魅力のある生きのいい企業がないのも市場の魅力という点からは問題です。自ら企業を選別する能力のあるプロの投資家にとっては、もう少し市場の間口を広げていろいろなタイプの企業が上場しているマーケットも必要です。東証マザーズをはじめ、新興市場と言われている市場もはじめはこうした考え方から生まれたわけですが、その後だんだんと規制・運用が厳しくなり、入口の壁が高くなっています。 |
伊藤様
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これを受け、２００７年秋の金融審議会でプロ向け市場制度の具体的な設計が行われました。ここで、プロの範囲や開示制度の内容、インサイダー規制等の適用関係などの論点が一つ一つ議論され、同年１２月に報告書の形にまとめられました。金融庁はこの報告書に沿って法案を作り、翌年2008年3月に、改正金融商品取引法案が上程され、6月に成立、12月12日に施行されました。TOKYO-AIMはこの改正法に基づいて開設・運営されることになります。
新市場の特色について
TOKYO-AIM市場の特色は、マザーズなどの既存市場との比較で説明すると分かりやすいのですが、大きな違いは、依って立つ法律上の根拠の違いにあります。そこで少し法律のお話をいたします。
金融商品取引法には、発行開示制度と継続開示制度があります。通常の発行開示とは、募集、売出を行う企業が有価証券届出書を財務局に提出するという皆さんご存じの制度です。取引所に上場した後は、継続開示として、有価証券報告書を財務局に提出しなければなりませんが、昨年からこの有価証券報告書には、内部統制報告書、いわゆるJ-SOXを添付しなければなりませんし、四半期開示も行う必要があります。財務局に提出された有価証券届出書や有価証券報告書は金融庁が運営するEDINETというシステムで公衆縦覧に供されます。
一方、昨年の改正金融商品取引法で導入されたプロ向け市場制度においては、有価証券届出書や有価証券報告書の代わりに、特定証券情報（有価証券届出書に代わるもの）、発行者情報（有価証券報告書に代わるもの）という名前の書類を開示する必要があります。大きな特徴は、これらの書類の内容や様式は取引所すなわちTOKYO-AIMが定めるという点であり、また財務局に書類を提出する必要もなく、取引所を通じて公表すれば良いという点です。
このプロ向け市場の開示制度は、有価証券届出書や有価証券報告書の届出義務が全くない私募（適格機関投資家私募と少人数私募があります）と通常の公募の中間のような制度と言えます。
では開示の様式その他を任されたTOKYO-AIMは何を定めるのか、ということになりますが、私どもとしては、開示の様式を有価証券届出書や有価証券報告書などとかけ離れたものにするつもりはありません。あまり変えてしまいますと、作るのも見るのもかえって面倒になってしまうからです。ただし、いくつかの点、例えば、現在、財務情報として過去５期間を求めているものを過去３期間にするといった点は変えようかと考えています。
TOKYO-AIMは開示の様式以外に開示の言語や会計基準についても任されています。日本語だけでなく、英語でも結構ですとか、会計基準としては日本基準だけでなく、国際会計基準や米国会計基準でも構いませんというのは、こうした法律上の仕組みから出てくるものです。
英語と国際会計基準についていえば、海外の企業はもちろんのこと、海外市場への上場を考えている日本の企業にとっても、これは極めて便利な市場であるということが言えると思います。そうした企業は、英語と国際会計基準で上場準備をしておけば、最後まで、シンガポールにしようか、ロンドンAIMにしようか、アメリカのNASDAQにしようか、TOKYO-AIMにしようかということを迷っていられるわけです。
この他には、内部統制報告書開示や四半期開示についても任意にしようと考えています。また、上場前の監査証明期間はマザーズなど既存市場が2期間必要なのに対して、TOKYO-AIMは1期間を考えています。上場基準は数値基準なし。指定アドバイザーが会社内容を評価することになります。
他方、市場の秩序を守る制度、すなわち虚偽記載、インサイダー取引に関する規制、大量保有報告制度、TOB制度などについては、法律上TOKYO-AIMにも他の市場と同様に適用されます。
指定アドバイザー（J-Nomad）について
例えば、マザーズなど既存の取引所に上場しようとする場合、上場に際しては、証券会社は上場のための引受審査を行いますが、最終的には東証が審査を行います。
TOKYO-AIMでは、取引所は現在東証が行っているような審査は行いません。審査は取引所が指定するアドバイザーが行います。これはロンドンAIMのNomad（Nominated Adviserの略）制度を日本風にアレンジして導入する仕組みで、略称「J−Nomad」制度です。J-Nomadは、制度としては会計法人などもなることが可能ですが、まずは証券会社だと思っていただいて結構です。TOKYO-AIMは金融庁から免許をもらいましたら直ちにJ−Nomadになりたいという証券会社から申請を受け、適格性を審査した後、J−Nomadとして指定をします。そうしてJ−Nomadに指定された証券会社だけが、企業をTOKYO-AIMに上場させることができるのです。つまり、取引所が審査した証券会社が審査したのだから上場を認めるという考え方です。
上場後、企業は決算発表やタイムリーディスククロージャーなどを行います。タイムリーディスククロージャーとは、例えば、新製品を開発しましたとか、合併しましたとか、業績予想が大きく変わりましたとかいった発表ですが、現在の例えばマザーズの場合には、上場会社は東証上場部と事前に直接やりとりをして、どのような資料でとか、どういうタイミングで公表しなければならないのかなどを相談しますが、TOKYO-AIMではこうしたことは取引所ではなくJ−Nomadと相談することになります。J−Nomadは上場前から上場後まで一貫して上場会社とお付き合いし、指導していきます。これがTOKYO-AIMの市場運営のやり方です。間接統治的な市場の運営の仕方と言えましょうか。
TOKYO-AIM市場像を描いてみると
TOKYO-AIMでは、上場基準として、例えば株主数基準を設けませんので、この点でいろいろな活用の仕方が出てくると想定されます。一例を挙げますと、上場時には資金調達をせずに上場だけをするということが考えられます。ロンドンAIMには良く見られるケースで、これをイントロダクションといいます。その後、市場環境をみながら、１０億円、２０億円と順次資金調達を行う、その場合も広く多数の一般投資家に資金を求める必要はなく、当該上場企業のビジネスをよく理解している少数のプロ投資家に株を持ってもらう。そしてこの間に業績が拡大し、社内体制整備が十分整ったところで、例えば、東証１部や２部に上場して、一般投資家も含めて、より大きな金額を調達する。こうしたこれまでは描けなかったストーリーがTOKYO-AIMという選択肢を使うことによって描けるようになります。
ほかにも恐らく私が今想像できないようないろいろな使い方がTOKYO-AIMにはあると思われます。市場に参加する証券会社や投資家、発行体などがそれぞれイマジネーションを膨らまして活用して頂きたいのです。上場会社がMBOを行う場合、これまでは非上場化するしか選択肢はありませんでしたが、TOKYO-AIMを活用することが考えられますし、優先株やトラッキングストックなど種類株の活用なども想定できるでしょう。
TOKYO-AIMに参加できる投資家を説明しますと、�‥�格機関投資家、�⊂緇豌饉辧↓�資本金5億円以上の株式会社、�い修谿奮阿遼／諭↓ソ禹饂些杁擇啅睛算饂些�3億円以上かつ1年以上の取引経験のある個人、これらを総称して特定投資家といいますが、日本の居住者であればこの特定投資家がTOKYO-AIMに直接買い注文を入れられる範囲です。もちろん個人投資家も投資信託などを通じて間接的にTOKYO-AIMに参加することができます。また上場会社のもともとの株主や取締役など何らかの理由でTOKYO-AIM上場企業の株を持っている個人投資家は売り注文に限って出すことができます。なお、非居住者については特に制限はなく、流動性を高めるためにも、海外の投資家にも積極的に市場に参加してもらえるよう、今後活動を行っていく予定です。
今後のスケジュール
最後に、今後のスケジュールですが、まもなく今年の4月末から５月にかけて取引所の免許をいただき、J−Nomad第一陣を指定して、上場第１号の申請を待つということになります。
本資料は2009年3月24日に講演された時点での内容であり、将来予告なしに内容が変更される可能性があります。 その正確性・完全性を全面的に保証するものではありません。また、情報提供を目的としたもので、投資勧誘を 目的に作成されたものではありません。これらの情報によって生じたいかなる損害についても、当社及び本情報 提供者は一切の責任を負いません。本資料の著作権はトライエフインテリジェンス株式会社にあり、本資料の 内容を無断で掲載あるいは改ざんすることを禁じます。なお、各講師の役職等は2009年3月24日時点のものです。
TOKYO-AIMのホームページのアドレスは http://www.tokyo-aim.com/ です。